山瀬:
このたびは、東京子供ヴァイオリンコンクールへのご協賛ありがとうございます。このコンクールは、音楽家を育てるコンクールというよりは、藤井社長のように、社会全体でグローバルに活躍できる人材を育てるということを目的にしています。それと、生まれた地域や環境によってチャンスが持てない子供にも機会を提供できればとも考えています。将来的には参加費も無料にして、宿泊費も援助するということも視野に入れています。
藤井:
いまだにクラシック音楽は日本にとっては異文化ですから、音楽を学ぶためにはどうしてもお金が必要というようになっていますね。それと、家族などの環境がそろわなければ、音楽を学ぶことは難しいと思います。ただ、東京などの大都市圏以外の地域のほうが、むしろ、余計な刺激がないぶん、音楽漬けの環境にできるような気もします。クラシック音楽は「異文化」なので、見よう見まねでやると必ず行き詰まります。それで、子供のころから学ばせようと、私がかつて学んだ桐朋学園の前身の「子供のための音楽教室」が作られたわけです。かなり音楽ができる人が出てきましたが、本当に身についたのかどうかは疑問ですね。小澤征爾さんなんかもしみじみ言っておられたことを思い出します。「たしかにすばらしく弾いているのだけれど、この子たちほんとうに自分の考えでやっているのかなあ」と。私がパリに留学しているときにすごく感じました。向こうは生活のなかにその「音楽」がある。向こうの民族の向こうの文化なのだから、模倣しきれるものではないし、越えられない。だから逆にわれわれ独自のものをどれだけ作れるか、ということをものすごく考えましたね。同じ曲であっても、日本人がどう感じるのだということですね。なんでもかんでも向こうの真似事をしていいものだとは思わないのです。
山瀬:
そうですね。
藤井:
たとえば、私が共演した指揮者の栁澤寿男さんが設立したバルカン室内管弦楽団ですが、いっしょに演奏してみて驚きました。同じヨーロッパといっても、全然感覚が違う。民族の力とでもいうか、日本人には計り知れない悲哀というか、強さを感じました。このオーケストラにはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のようなものを期待している人はいない。この民族色が大事なのだなと。
山瀬:
「個性」ですね。
藤井:
そうです。そういうのは、ほかで聴けないから。上手い下手じゃないのです。たしかに、いろいろと演奏上の事故もあったりしましたが、そういうのも「個性」なのです。
山瀬:
それは音楽を学んでこられた藤井社長だからこその「文化交流」ですね。
藤井:
異文化を知る、ということは大事ですから。自社のCMでもフルートを演奏したのですが、二胡の霍暁君(フオ シャオジュン)と共演しました。その演奏を聴いた中国大使館のかたから「中国文化を理解しておられる」と言われましたが、それをねらってやったわけじゃない。これはビジネスだけじゃなかなかできないことなのですよね。文化交流というのは、ビジネスを乗り越えることができることが、すばらしいことだと私は思います。上手い下手じゃない、お互いの個性を、異文化を認め合う、それが大事じゃないかと思うのです。
山瀬:
そういう意味では音楽はとても強いですよね。龍角散はベルリン・フィルや『音楽の友』など、音楽文化に支援を行っています。
藤井:
じつは、それは私にとっては「支援」じゃなくて、「ビジネス」なのです。なにか見返りを求めるわけじゃないのですが、そのときは「のったほうがいい」と決断しました。それはビジネスの「カン」というものでしょうか。見返りじゃないですが、ベルリン・フィルのリハーサルを学生に見せてください、とはお願いしました。ただし、学生には学長を通して「同じことをやっちゃだめだ」とは伝えました。あの名技はまねできるものじゃない。同じ曲でも違う表現方法でいかないと勝負にならない。事業も同じで、中小企業が大企業と同じことをする必要はないと思っています。

